スペクトラムアナライザの基礎知識:動作原理と測定への応用

スペクトラムアナライザは、高周波信号の解析や評価に欠かせない計測器です。信号に含まれる周波数成分を特定し、それぞれの振幅や特性を解析することで、通信機器や電子部品の設計・評価を支えます。そのため、スペクトラムアナライザの仕組みや測定条件を正しく理解することは、計測精度や作業効率を向上させる上で重要です。本記事では、スペクトラムアナライザの動作原理、内部構造、測定条件の設定方法、そして応用例について詳しく解説します。

スペクトラムアナライザの基本的な仕組み

スペクトラムアナライザは、信号に含まれる周波数成分とその振幅を測定する計測器です。測定結果は、横軸に周波数、縦軸に信号レベルを表示する「周波数ドメイン表示」として出力されます。これは、時間軸に基づく信号を解析するオシロスコープの「時間ドメイン表示」と対照的な特性を持ちます。

スペクトラムアナライザの内部には以下のような主要な構成要素が含まれています:

ミキサ

ミキサは、入力信号を周波数変換して特定の周波数帯域の信号を抽出するデバイスです。入力信号が適切なレベルでないと、歪が発生し正確な測定ができなくなります。

IFフィルタ

特定の周波数だけを通過させるバンドパスフィルタです。このフィルタの通過帯域幅(RBW)は測定分解能を決定します。

局部発振器

測定対象の周波数範囲をカバーするため、基準となる周波数信号を生成します。局部発振器の周波数設定により、特定の周波数成分を選択的に測定することが可能になります。

RF入力アッテネータ

入力信号の振幅を適切なレベルに減衰させ、ミキサでの歪やノイズの影響を軽減します。

検波器

通過した信号の振幅を検出し、信号レベルをデジタル値として取得します。

ビデオフィルタ

検波器出力に含まれるランダムノイズを滑らかにするための低域通過フィルタです。

測定条件に影響を与える要素

1. ミキサの入力レベル

ミキサへの入力信号が適切なレベルでない場合、以下の問題が発生します:

直線性の保持

入力レベルが高すぎると、ミキサの出力が直線性を失います。この結果、正確な測定ができなくなります。特に、直線性の限界を示す「1dBコンプレッションポイント(P1dB)」を超えると、測定精度に大きな影響を及ぼします。

高次歪の発生

ミキサは、高調波や相互変調歪を引き起こします。たとえば、入力信号の2次高調波や3次相互変調成分が測定結果に混入し、意図しない信号として表示される場合があります。

ノイズフロアの影響

入力信号が小さすぎると、ノイズフロアに埋もれてしまい、信号が正確に測定できません。このため、信号レベルとノイズレベルの差(S/N比)を適切に保つ必要があります。

2. RF入力アッテネータの設定

RF入力アッテネータは、信号の減衰量を調整し、測定の精度を保ちます。
減衰量を増やすと高次歪が軽減されますが、信号がノイズフロアに近づくため、測定可能な最小信号レベルが制限されます。
減衰量を減らすと小信号の測定が容易になりますが、歪のリスクが高まります。

3. IFフィルタの通過帯域幅

RBW(Resolution Bandwidth)は、測定の分解能に大きく影響します。

分解能の向上

RBWを小さくすると、近接する周波数成分を区別できる精度が向上します。

測定時間の増加

RBWが小さいほど、掃引時間が長くなるため測定に時間がかかります。

さらに、RBWを広げると、ノイズフロアのレベルも上昇するため、測定結果に影響を与える場合があります。

4. ビデオフィルタ(VBW)

VBW(Video Bandwidth)は、ノイズ成分を抑えるために設定されます。
VBWを小さく設定すると、ノイズフロアが滑らかになり、小信号が視認しやすくなります。
VBWを大きく設定すると、ノイズの影響がそのまま表示されますが、信号の動的な変化をより詳細に観察できます。

測定の実践例

高周波回路の特性評価

スペクトラムアナライザは、アンプやフィルタの周波数特性を解析するために使用されます。たとえば、フィルタの通過帯域やストップバンド特性を測定し、設計仕様に適合しているかを確認します。

ノイズ対策の評価

通信機器では、ノイズフロアの影響を最小限に抑えることが重要です。スペクトラムアナライザを用いてノイズレベルを可視化し、システム全体の性能向上に役立てます。

干渉信号の解析

無線通信システムでは、隣接チャンネル干渉やスプリアス信号の影響を評価します。スペクトラムアナライザで周波数ドメインの情報を取得し、問題の原因を特定します。

設定と注意点

適切な入力信号レベルの設定

信号がミキサの直線性範囲内に収まるようにRF入力アッテネータを調整します。

周波数範囲の選定

測定対象の周波数帯域を明確にし、局部発振器の掃引設定を適切に行います。

RBWとVBWの最適化

測定精度と効率のバランスを考慮し、RBWとVBWを調整します。特にノイズフロア付近の信号を測定する際は、VBWを小さくすることが効果的です。

スペクトラムアナライザの利点と応用範囲

スペクトラムアナライザは、高周波信号の特性評価を通じて、幅広い分野で利用されています。

通信機器の設計と評価

携帯電話や無線LANなどの特性測定に最適です。

電子部 品の品質管理

フィルタ、アンプ、ミキサなどの性能評価に使用されます。

信号解析とトラブルシューティング

干渉信号やノイズの特定に役立ちます。

まとめ

スペクトラムアナライザは、信号解析において不可欠な計測器です。その動作原理を理解し、測定条件を適切に設定することで、精度の高い結果を得られます。また、測定要素ごとのトレードオフを意識し、最適な条件を選択することが重要です。

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