ネットワークアナライザの動作原理と応用:計測器の基礎を理解する
ネットワークアナライザは、高周波回路や通信機器の開発において不可欠な計測器です。その動作原理を理解することで、より精密で効率的な測定が可能になります。本記事では、ネットワークアナライザの基本的な動作構造、測定方法、キャリブレーション手順、そして応用例について詳しく解説します。
ネットワークアナライザの基本構造と動作
ネットワークアナライザは、以下の主要な構成部品で動作します:
信号発生器
DUT(測定対象回路)に供給する信号を生成します。
受信部
DUTを通過した信号や反射信号を受信し、そのレベルや位相を測定します。
Sパラメータテストセット
信号を分岐させ、伝送特性や反射特性を効率的に測定できるようにします。
データ処理部
受信した信号を基に、回路特性(レベル比や位相差)を計算します。
ディスプレイ
計測結果をさまざまな形式で可視化します。
信号発生器の動作
信号発生器は、測定対象の周波数特性を解析するために正弦波を生成します。この正弦波信号は、周波数ごとの測定を行うための基本となります。また、ネットワークアナライザでは特定の周波数範囲内で連続的に周波数を変化させる「周波数掃引」を行います。この掃引は、以下の手順で実施されます:
1. 周波数ポイントの設定
測定範囲内で周波数を1ポイントずつ設定。
2. 測定の実行
各ポイントで回路特性を測定し、次のポイントへ移動。
この方式を「シンセサイズド掃引」と呼び、周波数の精度を保ちながら測定できます。
また、信号発生器は「ALC(Automatic Level Control)」回路を用いて信号レベルを自動的に調整します。この仕組みにより、測定対象に一定の信号レベルを供給できるため、正確な特性評価が可能です。
受信部の役割
受信部は、リファレンス信号(参照信号)とテスト信号(DUTを通過または反射した信号)を受信します。これらの信号のレベル比と位相差を解析することで、DUTの特性を評価します。受信部は一般的に「ベクトルネットワークアナライザ」として構成されており、信号の振幅と位相を同時に測定できます。
計測結果の表示形式
ネットワークアナライザは、多様な表示形式を提供します。それぞれの形式が特定の解析に適しています。
LogMAG
信号レベルの比をdB単位で表示。伝送特性や反射特性の増幅度・減衰度を示します。
Phase
位相変化を°(度)で表示。入力信号と出力信号の位相差を評価します。
Delay
DUTを通過する際の遅延時間を秒単位で表示。群遅延の評価に使用します。
SWR
定在波比(Standing Wave Ratio)を表示。反射信号の特性を評価します。
Polar
振幅比と位相差を円グラフ形式で表示。反射特性の視覚的理解に適しています。
Smith Chart
DUTのインピーダンス特性を表示。実数部と虚数部の比率を示します。
キャリブレーションの重要性
正確な測定にはキャリブレーションが欠かせません。キャリブレーションにより基準値が設定され、測定誤差を最小限に抑えます。以下の手法でキャリブレーションが行われます:
基準面の設定
DUTの接続端面を基準面として定義。
キャリブレーションキットの使用
OPEN(∞Ω)、SHORT(0Ω)、LOAD(50Ω)、THRU(導通)の基準器を使用。
キャリブレーションの種類
THRU(スルー)
DUTに接続するケーブル端を直接接続し、伝送特性の基準値を設定します。
Reflection(リフレクション)
DUTにOPENやSHORTを接続し、反射特性の基準値を設定します。
Isolation(アイソレーション)
DUTにLOADを接続し、信号漏れの影響を排除します。
Terminate(ターミネート)
DUTのケーブル端にLOAD(50Ω)を接続し、反射波が発生しない状態を基準として設定します。
応用例:リニアリティ測定とTDR測定
リニアリティ測定
リニアリティとは、回路の入力信号と出力信号の特性が比例している状態を指します。測定では、入力信号のレベルを変化させ、どの程度まで直線性が保たれるかを評価します。この特性が失われる点を「1dBコンプレッションレベル(P1dB)」と呼びます。
TDR測定(時間ドメイン反射率測定法)
TDRは、反射信号を時間軸で解析し、回路のインピーダンス特性を測定します。具体的には、信号発生器からステップ信号を送り、その反射波を基に以下を評価します:
反射波の振幅
DUTのインピーダンスを解析。
反射波の遅延時間
DUTまでの距離を測定。
まとめ
ネットワークアナライザは、信号発生器、受信部、Sパラメータテストセットなどの構成要素を組み合わせ、伝送特性や反射特性を高精度に測定する計測器です。キャリブレーションや適切な表示形式を駆使することで、精密な回路解析が可能となります。
計測器の選定や活用において、ネットワークアナライザの特性を十分に理解し、効率的な測定を行うことで、開発プロセスの最適化や製品の品質向上に寄与するでしょう。
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